カトーN700S・トミックスN700S 比較レビュー(後編)
※前編から続きます。
●屋根上表現・パンタグラフ

左がトミックス、右がカトー。
パンタ本体はトミックスの方がモールドが細かいとか、カトーはアームが太目だったりとか、こちらも基本的にはN700系のそれを踏襲している。カトーは全体的にグレーが濃く(パンタ本体は側壁よりも濃い)、光沢が強い。実車では5・12号車でガイシ覆いスロープ部にある滑り止めに微妙な差があるが、模型では両社とも作り分けていない。


上がカトー、下がトミックス。パンタカバー側壁の位置・形状はほぼ同一でグレーの濃さが違う程度。カトーの方がパンタのリフト量が大きいようだ。

左がカトーN700系、右がカトーN700S。実車においてN700Sのパンタカバー(ガイシ覆い部分)の幅が狭い点はトミックスともどももちろん再現。パンタの支持ガイシもN700Sでは2→1本に変わっていることがわかる(写真に見える範囲の話で、パンタ全体では3→2本に変更)。


上がカトー、下がトミックス。
こちらもN700系の差異とほぼ同じで、トミックスは滑り止めのみだがカトーはそれに加えてアルミ押し出し材のラインも表現。このライン、実車がそこまで目立つかと言われれば少々疑問があるが、ある意味屋根上が寂しい新幹線では「演出」としてまあまあ効いていると思う。
細かいことだが、トミックスでは高圧線が通っていない箇所でも滑り止めの中央部が抜けている問題があったが、N700Sでは解消されている。もっとも、N700系でもS・R編成では解消されていた。

左がトミックス、右がカトー。先頭車の検電アンテナ周辺の表現もN700系のそれを踏襲。カトーはアンテナ土台にモールドがあるが、トミックスはアンテナがあるだけだ。

左がトミックス、右がカトー。高圧線車端ジョイントを比較すると、トミックスと比べてカトーはスリムな形状である。カトーは車端までケーブルが伸びているがトミックスは省略、というのはN700系(というかそれ以外の形式でも)と同じ仕様だ。

左がカトーN700系、右がカトーN700S。同門比較だとN700Sのジョイントの方がスリム。
トミックスN700SとカトーN700系のジョイントは非常に近く、カトーN700Sのスリムさだけが突出している。うーん…また?


上がN700系、下がN700S。実車においても、N700Sのジョイントはスリムであることがわかる。またもやカトーは実車通り、トミックスはN700系の形状で再現していることになる。


模型は左がトミックス、右がカトー。N700系もそうだったが、カトーは大型ジョイントを再現しているが(写真は3号車)トミックスは他号車もすべて同じ形状。こんな大きな違いさえ再現していないのだから、N700系とN700Sのジョイントの違い程度は目をつむれということだろうか。ボディはすべて新規制作なのに…


模型は左がトミックス、右がカトー。これもN700系の時からそうだが、14号車の高圧線終端処理、カトーは実車の少し曲がりがある状態を再現しているがトミックスはストレートな表現。

左がトミックス、右がカトー。8号車車端にある赤枠に囲まれたハッチはカトーは周辺の滑り止めもハッチ自体もモールドがあるが、トミックスは単に赤枠の印刷のみで表現。
このハッチの赤枠のみならず、屋根上の号車番号、車端の注意喚起赤線はすべて印刷済みになっている。トミックスはN700系ではすべてインレタ表現だったから、その点では改善されたといえるだろう。

カトーN700Sの8号車と10号車のハッチ比較。山側同士で向かい合わせて撮影したため、車端ケーブルの向きが逆になっている。もちろん、10号車も8号車も実車どおりの位置でモールドで表現されている。


ただ、10号車は合っているが8号車のハッチ周辺の滑り止め表現は実車とは異なっており、ここはカトーもN700系の滑り止めパターンになってしまっている。屋根上は新規制作のはずだから従来製品の影響とかではなく、単に違いに気づかなかったのだろう。
●床下表現・台車



模型は上がカトー、下がトミックス。床下のモールド感を比較する。カトーはハッチ類の細かい手掛けみたいのを再現していて細かいし、トミックスはダクトのフィンの向きがわかるようなモールドが好印象で、どちらも甲乙つけがたい。パネル間の隙間のモールドはカトーの方が強い。

ただ、各パネルのボルトの位置、特に下端のボルトはトミックスは少々窮屈な印象を受ける。
以下、床下のパターンを見る。上段がカトー、下段がトミックス。クリックすると拡大画像。
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1号車海側
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1号車山側
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16号車海側
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16号車山側
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中間車パターン1海側(3・6・11・14号車)
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中間車パターン1山側(3・6・11・14号車)
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中間車パターン2海側(2・4・5・7・8・9・10・12・13・15号車)
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中間車パターン2山側(2・4・5・7・8・9・10・12・13・15号車)
N700Sは機器の集約化・最適化により従来形式と比べて床下パターンが少なく、先頭車2種、中間車2種の4パターンで済んでおり、その分再現ハードルも下がって模型では両者とも網羅できている。中間車はパターン2の方が多く、0系のように偶数車奇数車といった単純な分類でないこともわかる。
トミックスは量産車発売時に台車カバーの関係で先頭車の床下を新規制作しているが、中間車の床下はJ0編成の流用である。実車の段階でJ0編成と量産車の差があまりないので、海側についてはカトー、トミックスともにダクトの横幅に若干解釈違いがある程度で済んでいるが、山側はパネルのピッチにJ0編成との差が見られるようだ。
それでも、量産車とはかなり異なる試作車の床下を流用していたトミックスN700系に比べたら、全然マシになったといえるだろう。



上2つがカトーで、下がトミックス。
台車カバーはカトーは実車通り分割線が2本と1本の2種類を作り分けている。同社はN700系では作り分けしてなかったからここまでやるとは思わなかったが、床下パターンが減ったので余裕を見せつけたのだろうか。分割線1本タイプは2・3・6・7・10・11・14・15号車に適用されていて当然実車通りである。したがって「床下パーツ」という単位で見れば、カトーの中間車パターン2はさらに台車カバーの違いによる2種類が存在することになる(パターン1は分割線1本タイプのみ)。
一方のトミックスはすべて分割線2本タイプで、適用号車が少ない方に寄せた結果になってしまっているが、それよりも気になるのは台車カバー自体の幅も、台車の開口部もカトーよりも広い点だ。

実車のカバー、特に台車の隠れ具合からしてカトーの方が忠実といえるだろう。J0編成では幅が広かったのかと思い落成時の雑誌などを漁ってみたがそんなことはなく、トミックスの幅の広さには疑問符が付く。ただし、台車カバーはボディとの接合部の隙間が他の床下パネルよりも浅く、トミックスはここを再現できている。



模型は上がカトー、下がトミックス。10号車東京寄りでボディも含めた位置関係を確認。
特に喫煙ルーム窓の位置との比較がわかりやすいが、トミックスは窓よりも左に台車カバーの分割線があることがわかる。一方、右側の客用窓との位置関係にも差はあるのだが左側ほど大きくなく、おそらく前述の車体長の長さ(カトーは1mm短い)が関係していると思われる。
床下車端のパネルはカトーと差がないのに対し、台車カバーに挟まれたその隣のパネルは幅が明確に違っており、トミックスがカバーを広くした意図はともかく、主にここで調整されていることがわかる。
それともう一つ、台車カバーの話ではないのだが10号車東京寄りで比較したのは理由があって、行先表示機の位置が微妙に異なる点に注目。トミックスはその下の客用窓と同軸上にあるが、カトーはやや左側(車端側)にずれている。これは実車どおりで、ややずらしすぎな感じはあるが(実車は行先表示機の右辺と真下の客用窓右辺が揃っている)、一応「ずれ」があることは認識しているようだ。
なお、他の号車ではこのような差は見られなかった。

ちなみに、N700系だったら同軸上で問題ない。またしてもトミックスはN700SではなくN700系の形状で再現したか。

E5系が居座ってて正面角度からは撮れなかったが、この角度からでもJ0編成の時点で行先表示機のずれがあったことを確認できる。もっとも、仮にJ0編成の行先表示機が同軸上にあったとしても、10号車ボディは新規制作なので実車を再現できていないことには変わりないのだが。


上がカトー、下がトミックス。台車はそれぞれN700系と全く同じで、台車端の軸バネの有無も変わらない。カトーは例によって車体傾斜ギミックが実装されている。
トミックスが台車カバーの開口部を広くしたのは走行性能を考慮したという見方もできるが、そうだとしたら過剰な気がする。カトーはこの窮屈なカバーと両端の軸バネありの状態でC280のカーブを問題なく曲がれるのだから。

カバー自体の造形を見ると、カトーは2段階に盛り上がってトミックスはフラットになっている。この写真でカバーへの反射を見ると2段階盛り上がりに見えることは見えるが、カトーのはちょっと大げさな気がする。
●灯火類
トミックスの点灯状態は省略し(J0編成のレビューを参考されたい)、カトーの点灯状態のみ確認する。




いろいろな角度で撮ってみたが、N700系の時ほどの立体感は感じられなかった。2灯表現も斜め上から見たときにかろうじて認識できる程度である。

N700系の時ほど内部のリフレクターまで再現されているようには見えない。ガトリングガンのような周囲のLEDがヘッドライトで、その中央にテールライトが居座るという凝ったものになっている。

プリズムの構造はN700系と比べたらシンプルで、ヘッドライト・テールライトで一体化した構造になっている(N700系では分けられていた)。というか、実車の構造は細かすぎてNゲージで再現するのは不可能だろう。

テールライトだと一応2灯点灯しているように見える。一応、実車もリフレクターの反射によっては先端側が光っているように見えることがあるので大きくは外していないと思う。
●連結部


上がカトー、下がトミックス。それぞれ両社標準の連結方式、カトーはKATOダイアフラムカプラー、トミックスはフック・U字型通電カプラーと可動幌の組み合わせである。


上がカトー、下がトミックス。ここまでカトー優位な展開が続いていたが連結部に関しては機構上全周幌を再現できておらず、連結間隔が広めなトミックスと比べても見劣りしてしまっている。
●総評
単独レビューならば気にならなかったことでも、比較レビューでは製品の特性が一気に表面化する。今回のレビューはまさにそんな感じだった。その結果(メインサイトを閉じた以上はどうしようもないが)ブログでやるレベルのレビューではなくなってしまった。とはいえ、久々の競作レビューは大変ながらも楽しかったことも確か。実車について改めて学べたことも多く、だからこそ止められないのかもしれない。
それはさておき、N700Sの比較レビューをそろそろ締めよう。
各部表現からして「濃厚こってり味のカトー」、「淡麗あっさり味のトミックス」という味付けで、基本的にはカトー、トミックスともに両社のN700系の延長線上にある製品である。ただ、それ以上の両社の考え方の違いも垣間見えた。
新幹線では久々の完全新作となったカトーは、ぱっと見似ているN700系とN700Sの気づきにくい細かい差異…例えば車体下部の断面形状なんかはその最たるものだが、そんな部分もよく拾えていると思った。後発だけにトミックスを研究できた優位性はあるかもしれないが、全体的な「N700S再現度」は上回っているといっていいだろう。
N700Sの「模型として」の欠点は少なく、強いてあげるなら全周幌には程遠い連結部くらいだろうか。「こってり濃厚」な雰囲気は人によっては合わないかも?という程度である。ただし、模型自体の出来とは直接関係ないところで気になることがある。それは価格だ。
(以下税込み定価、フル編成の場合)
・カトー通常品 47,300円
・カトー特別企画品 47,080円
・トミックスJ編成 49,170円
・トミックスH編成 48,730円
これでもカトーはトミックスより安いし(両社ともH編成は若干安い)、マイクロあたりと比べたら全然良心的な値付けではあるのだけど、これがN700系(N700A)ではカトーが39,050円、トミックスが46,530円。カトーはコスト高な動力車が少ないこともあるが700系や500系でもだいたいこれくらいの差で、カトーはトミックスより「けっこう安い(イ○シスみたいだな)」だったのが、今回は肉薄するくらいの差になってしまった。それだけカトーは大幅に値上がっているわけで(動力車が増えたわけでもないのに)、今後の製品価格がどうなるのかちょっと心配ではある。
一方、トミックスはすでにJ0編成、量産車と単独レビューしてきたのだけど、これまで見えなかった・気づかなかった部分が今回カトーとの比較レビューで浮き出てきたと思う。その結果、トミックスのこれまでの評価を(どちらかといえば悪い方に)改めざるを得ないというのが正直なところだ。
屋根の再現があっさりしているとか、N700系から引き継いだ「味」みたいのはいいとしても、これまで挙げた運転室周辺の造形、車体下部断面、10号車の行先表示機、屋根上のジョイントなど、N700SではなくN700系の造形で反映されているのが気になる。
例えば運転室周辺は、
①N700SとN700系の造形に違いがあることは認識しているが、パーツ共用したかったのでN700系の造形にした。
②N700SとN700系の造形に違いがあることを認識しておらず、N700系の造形にした。
のどちらかの理由が考えられるが、わざわざN700系の仕様にする必要がない車体断面や10号車を見るにつけ、(あくまで筆者の推測に過ぎないが)上記は②な気がしている。違いを認識できている個所もあるにはあるけど、全体的に「N700SとN700系は同じ造形だろうからヨシ!」みたいな、単純に実車調査が甘かった、足りてなかったのでは?と。それもJ0編成の段階で。
そして、これらを単独レビューのときに見抜けず無難なことしか書けなかったのは…なんてことない、筆者自身が「トミックスは造形だけは外さないからヨシ!」という思い込みや先入観に囚われていたのだ。それが露呈してしまったのが悔やまれ、恥ずかしく、読者様に申し訳なく思った。チェックが甘いのはどっちだ、何年新幹線の模型レビューやっとんねん!と言われたら返す言葉もない。
今回、改めて単独レビューの難しさを痛感した次第。今後に活かせればと思う。
ここまで見てきた通り、再現度はカトーが上回っていると言わざるを得ないだろうし、そのエビデンス(根拠)も示してきたつもりだ。だが、トミックスがダメかというとそうでもない。前述のとおり、単独レビュー時に筆者が今回出てきた「粗」を見抜けなかったわけだが、それは違和感がなかったからというのも事実である。つまり、N700Sとしてはそこまで「変」なわけではなく、雰囲気は十分再現できているとはいえるのだ。カトーのこってり味付けよりも、トミックスのあっさり、さっぱりな味付けが好みであれば、後者を選択するのは十分アリだと思っている。
結局どちらを選ぶにせよ(両方選んでもいいが)、自分の感性に素直に従うのが一番いいかも、という結論になってしまうのだが。
●屋根上表現・パンタグラフ

左がトミックス、右がカトー。
パンタ本体はトミックスの方がモールドが細かいとか、カトーはアームが太目だったりとか、こちらも基本的にはN700系のそれを踏襲している。カトーは全体的にグレーが濃く(パンタ本体は側壁よりも濃い)、光沢が強い。実車では5・12号車でガイシ覆いスロープ部にある滑り止めに微妙な差があるが、模型では両社とも作り分けていない。


上がカトー、下がトミックス。パンタカバー側壁の位置・形状はほぼ同一でグレーの濃さが違う程度。カトーの方がパンタのリフト量が大きいようだ。

左がカトーN700系、右がカトーN700S。実車においてN700Sのパンタカバー(ガイシ覆い部分)の幅が狭い点はトミックスともどももちろん再現。パンタの支持ガイシもN700Sでは2→1本に変わっていることがわかる(写真に見える範囲の話で、パンタ全体では3→2本に変更)。


上がカトー、下がトミックス。
こちらもN700系の差異とほぼ同じで、トミックスは滑り止めのみだがカトーはそれに加えてアルミ押し出し材のラインも表現。このライン、実車がそこまで目立つかと言われれば少々疑問があるが、ある意味屋根上が寂しい新幹線では「演出」としてまあまあ効いていると思う。
細かいことだが、トミックスでは高圧線が通っていない箇所でも滑り止めの中央部が抜けている問題があったが、N700Sでは解消されている。もっとも、N700系でもS・R編成では解消されていた。

左がトミックス、右がカトー。先頭車の検電アンテナ周辺の表現もN700系のそれを踏襲。カトーはアンテナ土台にモールドがあるが、トミックスはアンテナがあるだけだ。

左がトミックス、右がカトー。高圧線車端ジョイントを比較すると、トミックスと比べてカトーはスリムな形状である。カトーは車端までケーブルが伸びているがトミックスは省略、というのはN700系(というかそれ以外の形式でも)と同じ仕様だ。

左がカトーN700系、右がカトーN700S。同門比較だとN700Sのジョイントの方がスリム。
トミックスN700SとカトーN700系のジョイントは非常に近く、カトーN700Sのスリムさだけが突出している。うーん…また?


上がN700系、下がN700S。実車においても、N700Sのジョイントはスリムであることがわかる。またもやカトーは実車通り、トミックスはN700系の形状で再現していることになる。


模型は左がトミックス、右がカトー。N700系もそうだったが、カトーは大型ジョイントを再現しているが(写真は3号車)トミックスは他号車もすべて同じ形状。こんな大きな違いさえ再現していないのだから、N700系とN700Sのジョイントの違い程度は目をつむれということだろうか。ボディはすべて新規制作なのに…


模型は左がトミックス、右がカトー。これもN700系の時からそうだが、14号車の高圧線終端処理、カトーは実車の少し曲がりがある状態を再現しているがトミックスはストレートな表現。

左がトミックス、右がカトー。8号車車端にある赤枠に囲まれたハッチはカトーは周辺の滑り止めもハッチ自体もモールドがあるが、トミックスは単に赤枠の印刷のみで表現。
このハッチの赤枠のみならず、屋根上の号車番号、車端の注意喚起赤線はすべて印刷済みになっている。トミックスはN700系ではすべてインレタ表現だったから、その点では改善されたといえるだろう。

カトーN700Sの8号車と10号車のハッチ比較。山側同士で向かい合わせて撮影したため、車端ケーブルの向きが逆になっている。もちろん、10号車も8号車も実車どおりの位置でモールドで表現されている。


ただ、10号車は合っているが8号車のハッチ周辺の滑り止め表現は実車とは異なっており、ここはカトーもN700系の滑り止めパターンになってしまっている。屋根上は新規制作のはずだから従来製品の影響とかではなく、単に違いに気づかなかったのだろう。
●床下表現・台車



模型は上がカトー、下がトミックス。床下のモールド感を比較する。カトーはハッチ類の細かい手掛けみたいのを再現していて細かいし、トミックスはダクトのフィンの向きがわかるようなモールドが好印象で、どちらも甲乙つけがたい。パネル間の隙間のモールドはカトーの方が強い。

ただ、各パネルのボルトの位置、特に下端のボルトはトミックスは少々窮屈な印象を受ける。
以下、床下のパターンを見る。上段がカトー、下段がトミックス。クリックすると拡大画像。
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1号車海側
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中間車パターン1海側(3・6・11・14号車)
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中間車パターン2海側(2・4・5・7・8・9・10・12・13・15号車)
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N700Sは機器の集約化・最適化により従来形式と比べて床下パターンが少なく、先頭車2種、中間車2種の4パターンで済んでおり、その分再現ハードルも下がって模型では両者とも網羅できている。中間車はパターン2の方が多く、0系のように偶数車奇数車といった単純な分類でないこともわかる。
トミックスは量産車発売時に台車カバーの関係で先頭車の床下を新規制作しているが、中間車の床下はJ0編成の流用である。実車の段階でJ0編成と量産車の差があまりないので、海側についてはカトー、トミックスともにダクトの横幅に若干解釈違いがある程度で済んでいるが、山側はパネルのピッチにJ0編成との差が見られるようだ。
それでも、量産車とはかなり異なる試作車の床下を流用していたトミックスN700系に比べたら、全然マシになったといえるだろう。



上2つがカトーで、下がトミックス。
台車カバーはカトーは実車通り分割線が2本と1本の2種類を作り分けている。同社はN700系では作り分けしてなかったからここまでやるとは思わなかったが、床下パターンが減ったので余裕を見せつけたのだろうか。分割線1本タイプは2・3・6・7・10・11・14・15号車に適用されていて当然実車通りである。したがって「床下パーツ」という単位で見れば、カトーの中間車パターン2はさらに台車カバーの違いによる2種類が存在することになる(パターン1は分割線1本タイプのみ)。
一方のトミックスはすべて分割線2本タイプで、適用号車が少ない方に寄せた結果になってしまっているが、それよりも気になるのは台車カバー自体の幅も、台車の開口部もカトーよりも広い点だ。

実車のカバー、特に台車の隠れ具合からしてカトーの方が忠実といえるだろう。J0編成では幅が広かったのかと思い落成時の雑誌などを漁ってみたがそんなことはなく、トミックスの幅の広さには疑問符が付く。ただし、台車カバーはボディとの接合部の隙間が他の床下パネルよりも浅く、トミックスはここを再現できている。



模型は上がカトー、下がトミックス。10号車東京寄りでボディも含めた位置関係を確認。
特に喫煙ルーム窓の位置との比較がわかりやすいが、トミックスは窓よりも左に台車カバーの分割線があることがわかる。一方、右側の客用窓との位置関係にも差はあるのだが左側ほど大きくなく、おそらく前述の車体長の長さ(カトーは1mm短い)が関係していると思われる。
床下車端のパネルはカトーと差がないのに対し、台車カバーに挟まれたその隣のパネルは幅が明確に違っており、トミックスがカバーを広くした意図はともかく、主にここで調整されていることがわかる。
それともう一つ、台車カバーの話ではないのだが10号車東京寄りで比較したのは理由があって、行先表示機の位置が微妙に異なる点に注目。トミックスはその下の客用窓と同軸上にあるが、カトーはやや左側(車端側)にずれている。これは実車どおりで、ややずらしすぎな感じはあるが(実車は行先表示機の右辺と真下の客用窓右辺が揃っている)、一応「ずれ」があることは認識しているようだ。
なお、他の号車ではこのような差は見られなかった。

ちなみに、N700系だったら同軸上で問題ない。またしてもトミックスはN700SではなくN700系の形状で再現したか。

E5系が居座ってて正面角度からは撮れなかったが、この角度からでもJ0編成の時点で行先表示機のずれがあったことを確認できる。もっとも、仮にJ0編成の行先表示機が同軸上にあったとしても、10号車ボディは新規制作なので実車を再現できていないことには変わりないのだが。


上がカトー、下がトミックス。台車はそれぞれN700系と全く同じで、台車端の軸バネの有無も変わらない。カトーは例によって車体傾斜ギミックが実装されている。
トミックスが台車カバーの開口部を広くしたのは走行性能を考慮したという見方もできるが、そうだとしたら過剰な気がする。カトーはこの窮屈なカバーと両端の軸バネありの状態でC280のカーブを問題なく曲がれるのだから。

カバー自体の造形を見ると、カトーは2段階に盛り上がってトミックスはフラットになっている。この写真でカバーへの反射を見ると2段階盛り上がりに見えることは見えるが、カトーのはちょっと大げさな気がする。
●灯火類
トミックスの点灯状態は省略し(J0編成のレビューを参考されたい)、カトーの点灯状態のみ確認する。




いろいろな角度で撮ってみたが、N700系の時ほどの立体感は感じられなかった。2灯表現も斜め上から見たときにかろうじて認識できる程度である。

N700系の時ほど内部のリフレクターまで再現されているようには見えない。ガトリングガンのような周囲のLEDがヘッドライトで、その中央にテールライトが居座るという凝ったものになっている。

プリズムの構造はN700系と比べたらシンプルで、ヘッドライト・テールライトで一体化した構造になっている(N700系では分けられていた)。というか、実車の構造は細かすぎてNゲージで再現するのは不可能だろう。

テールライトだと一応2灯点灯しているように見える。一応、実車もリフレクターの反射によっては先端側が光っているように見えることがあるので大きくは外していないと思う。
●連結部


上がカトー、下がトミックス。それぞれ両社標準の連結方式、カトーはKATOダイアフラムカプラー、トミックスはフック・U字型通電カプラーと可動幌の組み合わせである。


上がカトー、下がトミックス。ここまでカトー優位な展開が続いていたが連結部に関しては機構上全周幌を再現できておらず、連結間隔が広めなトミックスと比べても見劣りしてしまっている。
●総評
単独レビューならば気にならなかったことでも、比較レビューでは製品の特性が一気に表面化する。今回のレビューはまさにそんな感じだった。その結果(メインサイトを閉じた以上はどうしようもないが)ブログでやるレベルのレビューではなくなってしまった。とはいえ、久々の競作レビューは大変ながらも楽しかったことも確か。実車について改めて学べたことも多く、だからこそ止められないのかもしれない。
それはさておき、N700Sの比較レビューをそろそろ締めよう。
各部表現からして「濃厚こってり味のカトー」、「淡麗あっさり味のトミックス」という味付けで、基本的にはカトー、トミックスともに両社のN700系の延長線上にある製品である。ただ、それ以上の両社の考え方の違いも垣間見えた。
新幹線では久々の完全新作となったカトーは、ぱっと見似ているN700系とN700Sの気づきにくい細かい差異…例えば車体下部の断面形状なんかはその最たるものだが、そんな部分もよく拾えていると思った。後発だけにトミックスを研究できた優位性はあるかもしれないが、全体的な「N700S再現度」は上回っているといっていいだろう。
N700Sの「模型として」の欠点は少なく、強いてあげるなら全周幌には程遠い連結部くらいだろうか。「こってり濃厚」な雰囲気は人によっては合わないかも?という程度である。ただし、模型自体の出来とは直接関係ないところで気になることがある。それは価格だ。
(以下税込み定価、フル編成の場合)
・カトー通常品 47,300円
・カトー特別企画品 47,080円
・トミックスJ編成 49,170円
・トミックスH編成 48,730円
これでもカトーはトミックスより安いし(両社ともH編成は若干安い)、マイクロあたりと比べたら全然良心的な値付けではあるのだけど、これがN700系(N700A)ではカトーが39,050円、トミックスが46,530円。カトーはコスト高な動力車が少ないこともあるが700系や500系でもだいたいこれくらいの差で、カトーはトミックスより「けっこう安い(イ○シスみたいだな)」だったのが、今回は肉薄するくらいの差になってしまった。それだけカトーは大幅に値上がっているわけで(動力車が増えたわけでもないのに)、今後の製品価格がどうなるのかちょっと心配ではある。
一方、トミックスはすでにJ0編成、量産車と単独レビューしてきたのだけど、これまで見えなかった・気づかなかった部分が今回カトーとの比較レビューで浮き出てきたと思う。その結果、トミックスのこれまでの評価を(どちらかといえば悪い方に)改めざるを得ないというのが正直なところだ。
屋根の再現があっさりしているとか、N700系から引き継いだ「味」みたいのはいいとしても、これまで挙げた運転室周辺の造形、車体下部断面、10号車の行先表示機、屋根上のジョイントなど、N700SではなくN700系の造形で反映されているのが気になる。
例えば運転室周辺は、
①N700SとN700系の造形に違いがあることは認識しているが、パーツ共用したかったのでN700系の造形にした。
②N700SとN700系の造形に違いがあることを認識しておらず、N700系の造形にした。
のどちらかの理由が考えられるが、わざわざN700系の仕様にする必要がない車体断面や10号車を見るにつけ、(あくまで筆者の推測に過ぎないが)上記は②な気がしている。違いを認識できている個所もあるにはあるけど、全体的に「N700SとN700系は同じ造形だろうからヨシ!」みたいな、単純に実車調査が甘かった、足りてなかったのでは?と。それもJ0編成の段階で。
そして、これらを単独レビューのときに見抜けず無難なことしか書けなかったのは…なんてことない、筆者自身が「トミックスは造形だけは外さないからヨシ!」という思い込みや先入観に囚われていたのだ。それが露呈してしまったのが悔やまれ、恥ずかしく、読者様に申し訳なく思った。チェックが甘いのはどっちだ、何年新幹線の模型レビューやっとんねん!と言われたら返す言葉もない。
今回、改めて単独レビューの難しさを痛感した次第。今後に活かせればと思う。
ここまで見てきた通り、再現度はカトーが上回っていると言わざるを得ないだろうし、そのエビデンス(根拠)も示してきたつもりだ。だが、トミックスがダメかというとそうでもない。前述のとおり、単独レビュー時に筆者が今回出てきた「粗」を見抜けなかったわけだが、それは違和感がなかったからというのも事実である。つまり、N700Sとしてはそこまで「変」なわけではなく、雰囲気は十分再現できているとはいえるのだ。カトーのこってり味付けよりも、トミックスのあっさり、さっぱりな味付けが好みであれば、後者を選択するのは十分アリだと思っている。
結局どちらを選ぶにせよ(両方選んでもいいが)、自分の感性に素直に従うのが一番いいかも、という結論になってしまうのだが。