カトーN700S・トミックスN700S 比較レビュー(前編)
※今回は前後編ありますが、先に後編をアップして記事順を前編→後編で読めるようにしています。
2022年1月(特別企画品は2月)、カトーよりN700Sが発売された。
・10-1697 N700S 新幹線「のぞみ」 基本セット(4両) 15,180円
・10-1698 N700S 新幹線「のぞみ」 増結セットA(4両) 11,220円
・10-1699 N700S 新幹線「のぞみ」 増結セットB(8両) 20,900円
・10-1742 特別企画品 N700S 3000番台新幹線「のぞみ」16両セット 47,080円
(税込み表示)

トミックスに続き、カトーからもN700Sが登場。J編成(JR東海)とH編成(JR西日本)をラインナップする。写真は後者。
N700Sは2022年3月現在、J編成(JR東海車)が25本程度増備されN700系の初期車を置き換えているほか、JR西日本も同型のH編成を投入(共同開発だった700系、N700系とは異なり、N700SはJR東海単独開発である)。今年9月に開業予定の西九州新幹線向けのY編成もスタンバイしており、まさに東海道・山陽・九州新幹線を幅広くカバーする高汎用性を持った最新型車両である。
多くの人目につき、乗車機会も多いであろう東海道新幹線の最新型車両は模型でも真っ先に発売されるネタであり、トミックスは実車が営業運転に入る前の2019年6月には確認試験車(J0編成)の製品を発売。その後は2021年5月にJ編成の量産車製品を発売した。それぞれの製品レビューは以下リンク先を参照されたい。
トミックス N700S確認試験車(J0編成) レビュー
トミックス N700S量産車 レビュー
2022年1月にはトミックスからJR西日本のH編成(3000番台)が発売されたほか、同時期にはカトーからもN700Sが発売。こちらはJ編成が通常製品、翌月発売のH編成が特別企画品となった。J編成、H編成は印刷表記程度しか差がなくバリエーション展開しやすいため、両社とも両編成をラインナップする結果となっている。そして、西九州新幹線向けの車両が発売されるのも時間の問題だろう。
ここ最近のNゲージ新幹線はトミックスの独壇場だった中、従来製品を小規模な改良でバリエーション展開していたカトーにとっては久々の完全新作である(E7系以来か)。発売時期的にトミックスとガチの競作になったこともあり、比較レビューとして改めて執筆してみた。その結果、前後編に分けれるという、メインサイトでやってたのに近いレベルの記事になってしまった。前述のトミックス製品単独レビューの内容を上書きしてしまうかもしれないが、根気よく読んでいただければ幸いだ。
J編成はすでにトミックス製品を持っていたことから、カトー製品は特別企画品(H編成)の方を購入。前述のとおり印刷表記と販売形態によるセット構成くらいしか違いがないので、対象としていないカトーJ編成、トミックスH編成のレビューとしても有効なはずだ。トミックスは単独でレビューしているので、今回はカトー製品を中心にしつつ比較していこうと思う。

通常品は3つのセット、特別企画品は1セットでフル編成を構成する。今回筆者が購入したのは後者となる。
なんとなくトミックスっぽい商品展開だが、特別企画品とはいえ2つのブックケースが収まる外箱は、トミックス限定品のような特別な装飾はなく一般的なものである。同社の新幹線製品ではE2系の「全線復旧1番列車」セット以来かもしれない。

特別企画品は16両フル編成セットで1~16号車の順番で収納されている。ホビーサーチさんの画像を見る限り、通常品のウレタンも並び替えに対応してるっぽく(特別企画品のと同じに見える)、カトー新幹線としては初めてではないだろうか。
通常品はJR東海のJ3編成、特別企画品はJR西日本のH2編成がプロトタイプ。トミックスはインレタでJ編成はJ1・3・8・10編成、H編成はH1・2編成を選択できる。なお、H編成は現状2編成しか導入されていない。両社ともJ・H編成の差異は印刷表記類とセット構成の違いだけである。
動力車はカトーが10号車で1両、トミックスが5・12号車で2両。これは両者ともN700系時代から変わらない。
●先頭形状

左がトミックス、右がカトー。先頭形状はぱっと見あまり違いは感じられず、どちらもN700Sとして違和感ないものではある。


上かカトー、下がトミックス。こうしてみると、特に運転室周辺(の特に後方)の造形に差があることがわかる。ヘッドライトから後方に伸びる稜線はカトーの方がエッジが強い感じだ。

左がトミックス、右がカトー。ヘッドライトのプリズム上にもエッジが入っており、やはりカトーの方が表現が強いように思う。ノーズ先端の連結器カバー分割線のモールドも強さに差があるが、このあたりは両者ともN700系からの伝統である。

上の画像を少しライティングを変えて先頭部のエッジを浮かび上がらせてみた。中央に走るエッジはトミックスの方が安定しているっぽい。

左がトミックス、右がカトー。
先頭形状で顕著に違いがあるのがここだろう。カトーは運転室側面の幅が広く、後方にかけて絞り込むような形状なのに対し、トミックスは幅が狭くて後方にかけてはストレートに近い。また、窓前方のエッジの伸び方(長さ)にも差がある。前面窓の正面部分についても、カトーは前後方向に短くトミックスは長いという差がある(おそらくトミックスはN700系のガラスパーツをそのまま使用している)。
ちなみにカトーのN700系はトミックスN700系・N700Sの形状に近く、その意味ではカトーN700Sのみが異端な状況である。
①実車においてN700系とN700Sは運転室周辺の造形は同じだが、カトーN700Sは少々盛っている。
②実車においてN700系とN700Sは運転室周辺の造形は異なっているが、トミックスはそれを再現していない(N700系と同じにしている)。
さて、どっちなんだろうか。


上がN700S、下がN700系。模型の違いを目の当たりにし、急遽北品川駅に近い御殿山の陸橋から撮ったものだ。
こうして比べてみると、N700系とN700Sの運転室周辺の造形は異なっていると見るのが妥当だろう。正面窓の長さも、側面部分の幅も、(影でわかりにくいかもだけど)後方の絞り込み具合も。したがって、先ほどの選択肢は②であり、少なくともこの部分についてはカトーの方が実車に忠実だといえる。
細かいところだと、内部に前方監視カメラの穴の位置に差があるが、ここはカトーもコンソール形状もろともN700系の位置で表現している。


ただ、こうした角度で見ると(筆者がいうのもなんだが)言われない限り差を感じにくいのも確かで、なんだかんだでトミックスにそれほど違和感がないのも確かだ。また、これを見る限り前面窓前方のエッジの伸びはN700系、N700Sで大きな差があるようには見えず、単に造形の解釈違いだけだと思う。
とはいえ、トミックスはなぜ実車とは異なる、N700系と同じ形状にしたのか謎である。N700系のパーツが流用できるのは確かだが、800系とかでやらかしてた10年前(もうそんなに経つのか)ならともかく、いまどきそんなセコイことするかな…と。
まあ、いったん置いといて前頭部の比較を続けよう。


上がカトー、下がトミックス。今度はノーズ部をサイドから比較する。ここでも前面窓サイドの大きさ・形状がわずかに異なることがわかる。ちなみに、カトーのガラスは黒く見えるがスモークが入っているため。これはN700系から引き継いだ仕様だ。
違いが感じられるのは以下あたりだろうか。
・前面窓からノーズにかけてのラインで、カトーはボンネットがやや低く、ノーズがやや長い。
・カトーのヘッドライトは横方から見てやや長く下向き。
・屋根肩部から運転室側面を走るエッジはトミックスの方が強く、下方に落ち込んだラインを描いている。
・青帯最上段の真下にあるハイライトの位置がカトーは前方、トミックスは後方寄りになっている。

模型と逆向きになって申し訳ない。
肩部のラインはトミックス、ノーズの低さやヘッドライトの雰囲気はカトーが近いように思う。細かい部分だとカトーは台車カバー前方にボディと段差があって、実車もなんとなくそんな感じである。実車ではかなり小さな段差なのでNゲージでの再現はややオーバーかもしれず、その意味ではストレートにしたトミックスが間違っているとはいえないが、カトーの方が雰囲気出てるような気がする。
造形というより塗装の範疇になるが、青帯最上段の塗装はトミックスの方が実車と比べてもいいセン行ってる。


ついでに前面窓もN700S(上)とN700系(下)で比較してみた。なるべく同じ画角になるよう撮影したが、ぱっと見には同じようでも正面窓と側面窓の位置関係、特に正面窓上端(後端)の位置に差があることがわかる。


お次は正面からの比較。上がカトー、下がトミックス。いったん撮影した写真が気に入らなかったので「フォーカスセレクト」という奥までピントが合う撮影方法で急遽撮り直したため、ライティングがちょっと独特になってしまった。でも、造形を比べるには問題ないはず。
前述のとおり両者にはノーズ高さに差があり、その影響でトミックスはヘッドライトの位置が高く正面から見ると上下に狭い。一方、カトーは上下にやや広く奥の方の目尻はややタレ目気味。後述するがヘッドライトプリズムの内部構造も異なる。
連結器カバーのラインを見るとよくわかるが特にアゴ(床下部分)の造形も差がある。これらが合わさった結果、トミックスは全体的にふっくらニンマリしたような表情、カトーはシュッとしてお目々キラキラという表情になっている。なお、アゴにある2つのカバー取っ手(?)はトミックスは表現しているがカトーでは省略されている。
車体肩部からノーズに至るラインはトミックスの方がハッキリしており、前端部の幅もやや広め。前述の運転室・前面窓あたりの造形、正面からではかなり差があることがわかる(やはりカトーの方が運転室幅が広いというか台形状)。
正直、こんなに差があるものかと改めて思う。


トミックスの運転室周りがN700系の形状ならば、正面からもN700SとN700系の違いを確認してみたくなる。両者の前面を同じような画角で撮るのは難しいが(頭端式ホームの駅でもあればいいんだけど)、東京駅の端っこから超望遠動画で撮影したものを切り出してみた。画質は悪いが造形の比較ができればそれでよいということで。
こうしてみると、運転室周りの造形、前面窓の形状に違いがあることがはっきりわかる。そして、カトーはN700Sに忠実、トミックスはN700系ベースであることも。

浜松工場で撮影したJ0編成(量産車も形状は同じ)。運転室周りとヘッドライトの造形はカトー、鼻筋の通り方はトミックスが似てるかな。
先頭形状についてはトミックスの単独レビュー(J0編成、量産車)のときは無難な評価しかしてなかったが、カトーと比べると結構実車と異なっていたことがわかってしまった。単独レビューの時に気づかなかった=N700系の造形が含まれていてもぱっと見に違和感はない…その意味では巧妙といえば巧妙なのかもしれない。
これまでモデリングについてはトミックスは実車に忠実、カトーはデフォルメという印象だったが、今回は逆転…というかカトーが相変わらず盛っていたとしても、忠実さで勝っているという結果になったようだ。正直、トミックスはちょっと「らしくない」かなと。
●車体各部表現


上がカトー、下がトミックス。先頭部の乗務員室扉・客用扉付近のモールド。各部表現はカトーは濃い目で目立つがやや大味、トミックスは節度感・精度感があるが目立ちにくいという、それぞれ両社N700系に準じている印象である。なお、トミックスN700系では客用扉下部の手掛け位置がやや低いという問題があったが、N700Sでは解消されている。
扉下端のクツズリ印刷はカトーは有り、トミックスには無しというのは両社それぞれの伝統。カトーにはエンド表記(②)と編成番号(H2)が印刷されていて特に後者、車体下部の編成記号が印刷されるのは同社では(それがデザインに組み込まれている800系を除けば)初めてである。なお、これらは銀色で印刷されているが実車は濃いグレーなのでその点異なる。
トミックスは印刷がないが、車体下部の編成記号は付属インレタで表現できる。エンド表記はインレタに収録されていないが、乗務員室扉の窓にある編成番号は表現できる。一方、カトーは窓の編成番号は印刷されていない。
ちなみに、カトーはドクターイエローでは窓に「T5」を印刷しているが車体下部の表記は一切なく、製品ごとに対応がまちまちである。

またまた逆向きになって申し訳ないが、モールドの濃さなどの違いがある程度で基本的な部分は両者問題ないように思う。
ちなみに、写真のJ23編成は「すれ違いセンサー」付きで、青帯最上段の中に確認できる。その他量産車でも装備されている編成をちょいちょい見かけており、筆者は今のところJ17・19・21・23編成で確認している。他にもあるかもしれないので引き続き調査だ。
ちなみに、トミックスのJ0編成(確認試験車)ではこのセンサーを印刷で表現している。



上段がカトー、中段がトミックス、下段が実車。1号車後位の比較。実車はまたまた逆向きになって(以下略)。
窓や扉、各種印刷の位置、サイズは大きな違いはなく、どちらも実車を忠実に再現できているといっていいだろう。カトーも今回新規制作品となった背びれ型検電アンテナ、形状は大きく変わらないがカトーの方はやや高さがある。
JRマーク・車番についてはトミックスの方がやや鮮明。といってもカトーも十分な印刷品質を保っていると思う。カトーは全車両に車番が印刷されているが、前述の編成番号と同じで銀文字である。「N700S」のロゴについては後述する。



上段がカトー、中段がトミックス、下段が実車。11号車山側の多目的室周辺の様子。
カトー、トミックスともに左端の客用扉の位置は揃えているのだけど、右端の客用窓は結構位置が異なっている。特に多目的室窓の左右のスペースに差が見られるが、カトーは車体長が1mm(実車換算160mm)短く、11号車に関してはその調整をここで行っているためと考えられる。行先表示機真下から2つの車椅子対応座席と通常座席の窓ピッチの差はどちらも再現できている。

左はカトーN700S、右がカトーN700系。
N700系とN700Sは車体断面、特に肩部のラインに差がありトミックスではその差を再現できているが(J0編成のレビュー参照)、カトーはあまり差を感じにくい…?写真のN700系はN700Aではなく初代製品なので外幌がボディに表現されているか否かの違いがあり、トミックスのような比較がしづらい。N700Aで比べればまた差が見えるのかもしれないが、カトーのN700Aは売却してしまったので…


上がカトー、下がトミックス。
車体側面には客用窓の上下にエッジが走っているが、窓上はどちらも同じような感じだが、窓下についてはカトーはシンプルに折れ目があるだけだがトミックスはやや影が付いたものになっている。


これは実車においてN700S(上)とN700系(下)の差だったりする。つまり、カトーはN700Sに忠実な(少なくとも窓下に関しては)車体断面を再現できているが、トミックスはN700系の車体断面で再現してしまっているということだ。これはJ0編成、量産車製品どちらも同じである。
前述の運転室周辺の造形と話が似ているが、あちらは前面窓の部品流用の都合でそうなったと邪推できるが、こちらはボディがすべて新規制作のうえ従来製品の部品が影響するような個所ではないため、単にトミックスは実車の違いに気づけなかったのだと推測する。
●塗装・印刷表現

左がトミックス、右がカトー。色調はそれぞれのN700系に準じており、トミックスはとにかく白く、カトーはアイボリー寄り。青帯もトミックスの方が明るい。写真ではなく直接見るとカトーは結構色黒な感じがある。床下のグレーもカトーは濃い目だ。
光沢はカトーの方が強く、ボディは「若干」程度の差だが床下は結構差がある。



上段がカトー、中段がトミックス、下段が実車。
「N700S」ロゴはトミックスはJ0編成→量産車の過程で結構な改善がみられていたが(量産車の単独レビュー参照)、カトーはシャープさは若干譲るし「S"upreme"」の部分の影も大味な印象ながら、グラデーションが細かく特に「N700」の部分はトミックスよりも好印象。N700系あたりではトミックスが明確に優位だったロゴ印刷、今回は互角くらいまでになった気がする。
なお、この写真は相当拡大しているので差が出てしまうが、ふつうに見る分にはどちらも違和感ない仕上がりだと思う。両者金色で印刷されている。


上がカトー、下がトミックス。号車番号、車椅子マーク、その他印刷は両社のN700系のものに準じている。カトーは客用扉の手掛けモールドがでかい…


上がカトー、下がトミックス。号車番号の数字やグリーンマークの大きさに差がみられるが(カトーはやや大きい)、これらも両社のN700系のものに準じた結果である。
左下の車番、カトーは印刷済みだがトミックスはインレタ表現のためJRマークのみになっている。各製品の車番の印刷状況は以下の通り。
・カトーはJ編成(J3編成)、H編成(H2編成)ともに全車両印刷済み。
・トミックス確認試験車(J0編成)は全車両印刷済み。
・トミックスJ編成は基本セットの4両のみJ1編成の車番が印刷済み、それ以外の車両は印刷なし(インレタ表現)。
・トミックスH編成は全車両印刷なし(インレタ表現)。

全体的に両社ともN700系に準じたN700Sだが、カトーはN700系だけでなくJR東日本のE○系でも「Ready to Run」の一環として行われてきた行先表示・座席表示の印刷がされておらず、かつての製品のようにステッカー(特別企画品では2枚付属)による表現に改められた。
ボディ側はガラス表現ではなく、窪みを付けたうえで黒で塗りつぶしている。走行中は行先表示機は消灯しているので(160km/h区間の西大井~武蔵小杉の横須賀線並走区間では点灯しているので、もっと出ないと消えない)、表現として間違っているわけではないが、印刷済み特有のリッチな演出は失われた。もっとも、ステッカー貼ればいいだけだし内容を自由に選べるので一長一短ではあるが…ちなみに、トミックスは印刷もステッカーもないのでそもそも論じようがない。
サードパーティー以外では初めてのN700系・N700S対応のステッカーであり(N700系は印刷済みだったのでステッカーがなかった)、大きさが合わないかもしれないが、トミックスのN700S、なんならN700系にも流用可能だろう。
(後編に続く)
2022年1月(特別企画品は2月)、カトーよりN700Sが発売された。
・10-1697 N700S 新幹線「のぞみ」 基本セット(4両) 15,180円
・10-1698 N700S 新幹線「のぞみ」 増結セットA(4両) 11,220円
・10-1699 N700S 新幹線「のぞみ」 増結セットB(8両) 20,900円
・10-1742 特別企画品 N700S 3000番台新幹線「のぞみ」16両セット 47,080円
(税込み表示)

トミックスに続き、カトーからもN700Sが登場。J編成(JR東海)とH編成(JR西日本)をラインナップする。写真は後者。
N700Sは2022年3月現在、J編成(JR東海車)が25本程度増備されN700系の初期車を置き換えているほか、JR西日本も同型のH編成を投入(共同開発だった700系、N700系とは異なり、N700SはJR東海単独開発である)。今年9月に開業予定の西九州新幹線向けのY編成もスタンバイしており、まさに東海道・山陽・九州新幹線を幅広くカバーする高汎用性を持った最新型車両である。
多くの人目につき、乗車機会も多いであろう東海道新幹線の最新型車両は模型でも真っ先に発売されるネタであり、トミックスは実車が営業運転に入る前の2019年6月には確認試験車(J0編成)の製品を発売。その後は2021年5月にJ編成の量産車製品を発売した。それぞれの製品レビューは以下リンク先を参照されたい。
トミックス N700S確認試験車(J0編成) レビュー
トミックス N700S量産車 レビュー
2022年1月にはトミックスからJR西日本のH編成(3000番台)が発売されたほか、同時期にはカトーからもN700Sが発売。こちらはJ編成が通常製品、翌月発売のH編成が特別企画品となった。J編成、H編成は印刷表記程度しか差がなくバリエーション展開しやすいため、両社とも両編成をラインナップする結果となっている。そして、西九州新幹線向けの車両が発売されるのも時間の問題だろう。
ここ最近のNゲージ新幹線はトミックスの独壇場だった中、従来製品を小規模な改良でバリエーション展開していたカトーにとっては久々の完全新作である(E7系以来か)。発売時期的にトミックスとガチの競作になったこともあり、比較レビューとして改めて執筆してみた。その結果、前後編に分けれるという、メインサイトでやってたのに近いレベルの記事になってしまった。前述のトミックス製品単独レビューの内容を上書きしてしまうかもしれないが、根気よく読んでいただければ幸いだ。
J編成はすでにトミックス製品を持っていたことから、カトー製品は特別企画品(H編成)の方を購入。前述のとおり印刷表記と販売形態によるセット構成くらいしか違いがないので、対象としていないカトーJ編成、トミックスH編成のレビューとしても有効なはずだ。トミックスは単独でレビューしているので、今回はカトー製品を中心にしつつ比較していこうと思う。

通常品は3つのセット、特別企画品は1セットでフル編成を構成する。今回筆者が購入したのは後者となる。
なんとなくトミックスっぽい商品展開だが、特別企画品とはいえ2つのブックケースが収まる外箱は、トミックス限定品のような特別な装飾はなく一般的なものである。同社の新幹線製品ではE2系の「全線復旧1番列車」セット以来かもしれない。

特別企画品は16両フル編成セットで1~16号車の順番で収納されている。ホビーサーチさんの画像を見る限り、通常品のウレタンも並び替えに対応してるっぽく(特別企画品のと同じに見える)、カトー新幹線としては初めてではないだろうか。
通常品はJR東海のJ3編成、特別企画品はJR西日本のH2編成がプロトタイプ。トミックスはインレタでJ編成はJ1・3・8・10編成、H編成はH1・2編成を選択できる。なお、H編成は現状2編成しか導入されていない。両社ともJ・H編成の差異は印刷表記類とセット構成の違いだけである。
動力車はカトーが10号車で1両、トミックスが5・12号車で2両。これは両者ともN700系時代から変わらない。
●先頭形状

左がトミックス、右がカトー。先頭形状はぱっと見あまり違いは感じられず、どちらもN700Sとして違和感ないものではある。


上かカトー、下がトミックス。こうしてみると、特に運転室周辺(の特に後方)の造形に差があることがわかる。ヘッドライトから後方に伸びる稜線はカトーの方がエッジが強い感じだ。

左がトミックス、右がカトー。ヘッドライトのプリズム上にもエッジが入っており、やはりカトーの方が表現が強いように思う。ノーズ先端の連結器カバー分割線のモールドも強さに差があるが、このあたりは両者ともN700系からの伝統である。

上の画像を少しライティングを変えて先頭部のエッジを浮かび上がらせてみた。中央に走るエッジはトミックスの方が安定しているっぽい。

左がトミックス、右がカトー。
先頭形状で顕著に違いがあるのがここだろう。カトーは運転室側面の幅が広く、後方にかけて絞り込むような形状なのに対し、トミックスは幅が狭くて後方にかけてはストレートに近い。また、窓前方のエッジの伸び方(長さ)にも差がある。前面窓の正面部分についても、カトーは前後方向に短くトミックスは長いという差がある(おそらくトミックスはN700系のガラスパーツをそのまま使用している)。
ちなみにカトーのN700系はトミックスN700系・N700Sの形状に近く、その意味ではカトーN700Sのみが異端な状況である。
①実車においてN700系とN700Sは運転室周辺の造形は同じだが、カトーN700Sは少々盛っている。
②実車においてN700系とN700Sは運転室周辺の造形は異なっているが、トミックスはそれを再現していない(N700系と同じにしている)。
さて、どっちなんだろうか。


上がN700S、下がN700系。模型の違いを目の当たりにし、急遽北品川駅に近い御殿山の陸橋から撮ったものだ。
こうして比べてみると、N700系とN700Sの運転室周辺の造形は異なっていると見るのが妥当だろう。正面窓の長さも、側面部分の幅も、(影でわかりにくいかもだけど)後方の絞り込み具合も。したがって、先ほどの選択肢は②であり、少なくともこの部分についてはカトーの方が実車に忠実だといえる。
細かいところだと、内部に前方監視カメラの穴の位置に差があるが、ここはカトーもコンソール形状もろともN700系の位置で表現している。


ただ、こうした角度で見ると(筆者がいうのもなんだが)言われない限り差を感じにくいのも確かで、なんだかんだでトミックスにそれほど違和感がないのも確かだ。また、これを見る限り前面窓前方のエッジの伸びはN700系、N700Sで大きな差があるようには見えず、単に造形の解釈違いだけだと思う。
とはいえ、トミックスはなぜ実車とは異なる、N700系と同じ形状にしたのか謎である。N700系のパーツが流用できるのは確かだが、800系とかでやらかしてた10年前(もうそんなに経つのか)ならともかく、いまどきそんなセコイことするかな…と。
まあ、いったん置いといて前頭部の比較を続けよう。


上がカトー、下がトミックス。今度はノーズ部をサイドから比較する。ここでも前面窓サイドの大きさ・形状がわずかに異なることがわかる。ちなみに、カトーのガラスは黒く見えるがスモークが入っているため。これはN700系から引き継いだ仕様だ。
違いが感じられるのは以下あたりだろうか。
・前面窓からノーズにかけてのラインで、カトーはボンネットがやや低く、ノーズがやや長い。
・カトーのヘッドライトは横方から見てやや長く下向き。
・屋根肩部から運転室側面を走るエッジはトミックスの方が強く、下方に落ち込んだラインを描いている。
・青帯最上段の真下にあるハイライトの位置がカトーは前方、トミックスは後方寄りになっている。

模型と逆向きになって申し訳ない。
肩部のラインはトミックス、ノーズの低さやヘッドライトの雰囲気はカトーが近いように思う。細かい部分だとカトーは台車カバー前方にボディと段差があって、実車もなんとなくそんな感じである。実車ではかなり小さな段差なのでNゲージでの再現はややオーバーかもしれず、その意味ではストレートにしたトミックスが間違っているとはいえないが、カトーの方が雰囲気出てるような気がする。
造形というより塗装の範疇になるが、青帯最上段の塗装はトミックスの方が実車と比べてもいいセン行ってる。


ついでに前面窓もN700S(上)とN700系(下)で比較してみた。なるべく同じ画角になるよう撮影したが、ぱっと見には同じようでも正面窓と側面窓の位置関係、特に正面窓上端(後端)の位置に差があることがわかる。


お次は正面からの比較。上がカトー、下がトミックス。いったん撮影した写真が気に入らなかったので「フォーカスセレクト」という奥までピントが合う撮影方法で急遽撮り直したため、ライティングがちょっと独特になってしまった。でも、造形を比べるには問題ないはず。
前述のとおり両者にはノーズ高さに差があり、その影響でトミックスはヘッドライトの位置が高く正面から見ると上下に狭い。一方、カトーは上下にやや広く奥の方の目尻はややタレ目気味。後述するがヘッドライトプリズムの内部構造も異なる。
連結器カバーのラインを見るとよくわかるが特にアゴ(床下部分)の造形も差がある。これらが合わさった結果、トミックスは全体的にふっくらニンマリしたような表情、カトーはシュッとしてお目々キラキラという表情になっている。なお、アゴにある2つのカバー取っ手(?)はトミックスは表現しているがカトーでは省略されている。
車体肩部からノーズに至るラインはトミックスの方がハッキリしており、前端部の幅もやや広め。前述の運転室・前面窓あたりの造形、正面からではかなり差があることがわかる(やはりカトーの方が運転室幅が広いというか台形状)。
正直、こんなに差があるものかと改めて思う。


トミックスの運転室周りがN700系の形状ならば、正面からもN700SとN700系の違いを確認してみたくなる。両者の前面を同じような画角で撮るのは難しいが(頭端式ホームの駅でもあればいいんだけど)、東京駅の端っこから超望遠動画で撮影したものを切り出してみた。画質は悪いが造形の比較ができればそれでよいということで。
こうしてみると、運転室周りの造形、前面窓の形状に違いがあることがはっきりわかる。そして、カトーはN700Sに忠実、トミックスはN700系ベースであることも。

浜松工場で撮影したJ0編成(量産車も形状は同じ)。運転室周りとヘッドライトの造形はカトー、鼻筋の通り方はトミックスが似てるかな。
先頭形状についてはトミックスの単独レビュー(J0編成、量産車)のときは無難な評価しかしてなかったが、カトーと比べると結構実車と異なっていたことがわかってしまった。単独レビューの時に気づかなかった=N700系の造形が含まれていてもぱっと見に違和感はない…その意味では巧妙といえば巧妙なのかもしれない。
これまでモデリングについてはトミックスは実車に忠実、カトーはデフォルメという印象だったが、今回は逆転…というかカトーが相変わらず盛っていたとしても、忠実さで勝っているという結果になったようだ。正直、トミックスはちょっと「らしくない」かなと。
●車体各部表現


上がカトー、下がトミックス。先頭部の乗務員室扉・客用扉付近のモールド。各部表現はカトーは濃い目で目立つがやや大味、トミックスは節度感・精度感があるが目立ちにくいという、それぞれ両社N700系に準じている印象である。なお、トミックスN700系では客用扉下部の手掛け位置がやや低いという問題があったが、N700Sでは解消されている。
扉下端のクツズリ印刷はカトーは有り、トミックスには無しというのは両社それぞれの伝統。カトーにはエンド表記(②)と編成番号(H2)が印刷されていて特に後者、車体下部の編成記号が印刷されるのは同社では(それがデザインに組み込まれている800系を除けば)初めてである。なお、これらは銀色で印刷されているが実車は濃いグレーなのでその点異なる。
トミックスは印刷がないが、車体下部の編成記号は付属インレタで表現できる。エンド表記はインレタに収録されていないが、乗務員室扉の窓にある編成番号は表現できる。一方、カトーは窓の編成番号は印刷されていない。
ちなみに、カトーはドクターイエローでは窓に「T5」を印刷しているが車体下部の表記は一切なく、製品ごとに対応がまちまちである。

またまた逆向きになって申し訳ないが、モールドの濃さなどの違いがある程度で基本的な部分は両者問題ないように思う。
ちなみに、写真のJ23編成は「すれ違いセンサー」付きで、青帯最上段の中に確認できる。その他量産車でも装備されている編成をちょいちょい見かけており、筆者は今のところJ17・19・21・23編成で確認している。他にもあるかもしれないので引き続き調査だ。
ちなみに、トミックスのJ0編成(確認試験車)ではこのセンサーを印刷で表現している。



上段がカトー、中段がトミックス、下段が実車。1号車後位の比較。実車はまたまた逆向きになって(以下略)。
窓や扉、各種印刷の位置、サイズは大きな違いはなく、どちらも実車を忠実に再現できているといっていいだろう。カトーも今回新規制作品となった背びれ型検電アンテナ、形状は大きく変わらないがカトーの方はやや高さがある。
JRマーク・車番についてはトミックスの方がやや鮮明。といってもカトーも十分な印刷品質を保っていると思う。カトーは全車両に車番が印刷されているが、前述の編成番号と同じで銀文字である。「N700S」のロゴについては後述する。



上段がカトー、中段がトミックス、下段が実車。11号車山側の多目的室周辺の様子。
カトー、トミックスともに左端の客用扉の位置は揃えているのだけど、右端の客用窓は結構位置が異なっている。特に多目的室窓の左右のスペースに差が見られるが、カトーは車体長が1mm(実車換算160mm)短く、11号車に関してはその調整をここで行っているためと考えられる。行先表示機真下から2つの車椅子対応座席と通常座席の窓ピッチの差はどちらも再現できている。

左はカトーN700S、右がカトーN700系。
N700系とN700Sは車体断面、特に肩部のラインに差がありトミックスではその差を再現できているが(J0編成のレビュー参照)、カトーはあまり差を感じにくい…?写真のN700系はN700Aではなく初代製品なので外幌がボディに表現されているか否かの違いがあり、トミックスのような比較がしづらい。N700Aで比べればまた差が見えるのかもしれないが、カトーのN700Aは売却してしまったので…


上がカトー、下がトミックス。
車体側面には客用窓の上下にエッジが走っているが、窓上はどちらも同じような感じだが、窓下についてはカトーはシンプルに折れ目があるだけだがトミックスはやや影が付いたものになっている。


これは実車においてN700S(上)とN700系(下)の差だったりする。つまり、カトーはN700Sに忠実な(少なくとも窓下に関しては)車体断面を再現できているが、トミックスはN700系の車体断面で再現してしまっているということだ。これはJ0編成、量産車製品どちらも同じである。
前述の運転室周辺の造形と話が似ているが、あちらは前面窓の部品流用の都合でそうなったと邪推できるが、こちらはボディがすべて新規制作のうえ従来製品の部品が影響するような個所ではないため、単にトミックスは実車の違いに気づけなかったのだと推測する。
●塗装・印刷表現

左がトミックス、右がカトー。色調はそれぞれのN700系に準じており、トミックスはとにかく白く、カトーはアイボリー寄り。青帯もトミックスの方が明るい。写真ではなく直接見るとカトーは結構色黒な感じがある。床下のグレーもカトーは濃い目だ。
光沢はカトーの方が強く、ボディは「若干」程度の差だが床下は結構差がある。



上段がカトー、中段がトミックス、下段が実車。
「N700S」ロゴはトミックスはJ0編成→量産車の過程で結構な改善がみられていたが(量産車の単独レビュー参照)、カトーはシャープさは若干譲るし「S"upreme"」の部分の影も大味な印象ながら、グラデーションが細かく特に「N700」の部分はトミックスよりも好印象。N700系あたりではトミックスが明確に優位だったロゴ印刷、今回は互角くらいまでになった気がする。
なお、この写真は相当拡大しているので差が出てしまうが、ふつうに見る分にはどちらも違和感ない仕上がりだと思う。両者金色で印刷されている。


上がカトー、下がトミックス。号車番号、車椅子マーク、その他印刷は両社のN700系のものに準じている。カトーは客用扉の手掛けモールドがでかい…


上がカトー、下がトミックス。号車番号の数字やグリーンマークの大きさに差がみられるが(カトーはやや大きい)、これらも両社のN700系のものに準じた結果である。
左下の車番、カトーは印刷済みだがトミックスはインレタ表現のためJRマークのみになっている。各製品の車番の印刷状況は以下の通り。
・カトーはJ編成(J3編成)、H編成(H2編成)ともに全車両印刷済み。
・トミックス確認試験車(J0編成)は全車両印刷済み。
・トミックスJ編成は基本セットの4両のみJ1編成の車番が印刷済み、それ以外の車両は印刷なし(インレタ表現)。
・トミックスH編成は全車両印刷なし(インレタ表現)。

全体的に両社ともN700系に準じたN700Sだが、カトーはN700系だけでなくJR東日本のE○系でも「Ready to Run」の一環として行われてきた行先表示・座席表示の印刷がされておらず、かつての製品のようにステッカー(特別企画品では2枚付属)による表現に改められた。
ボディ側はガラス表現ではなく、窪みを付けたうえで黒で塗りつぶしている。走行中は行先表示機は消灯しているので(160km/h区間の西大井~武蔵小杉の横須賀線並走区間では点灯しているので、もっと出ないと消えない)、表現として間違っているわけではないが、印刷済み特有のリッチな演出は失われた。もっとも、ステッカー貼ればいいだけだし内容を自由に選べるので一長一短ではあるが…ちなみに、トミックスは印刷もステッカーもないのでそもそも論じようがない。
サードパーティー以外では初めてのN700系・N700S対応のステッカーであり(N700系は印刷済みだったのでステッカーがなかった)、大きさが合わないかもしれないが、トミックスのN700S、なんならN700系にも流用可能だろう。
(後編に続く)