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トミックス N700S量産車 レビュー

2021年5月、トミックスよりN700Sの量産車が発売された。

・98424 N700系(N700S)東海道・山陽新幹線基本セット(4両) 13,860円
・98425 N700系(N700S)東海道・山陽新幹線増結セットA(4両) 11,330円
・98426 N700系(N700S)東海道・山陽新幹線増結セットB(8両) 23,980円

(税込み表示)

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東海道・山陽新幹線の最新鋭、N700Sの量産車。実車は新形式扱いだが、製品名を見ると模型的にはN700系のバリエーションの一つ、ということだろうか。

トミックスからは2019年6月にN700Sの確認試験車(J0編成)の製品がすでに発売されていたが、今回は量産車の製品となる。実車の営業運転開始が昨年7月なので、新幹線模型は運転開始とほぼ同時に発売されていた一時期に比べたらずいぶん落ち着いたスケジュールだといえるが、かといって遅すぎるわけでもなくちょうどよい塩梅といえるだろう。

なお、今回の量産車発売により確認試験車の製品は生産終了となっている。試作車(試験車)を初回で発売して、量産車発売後はそれにスイッチしていくというのは過去の100系、N700系でも見られた展開だ。

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新幹線の紙パック基本セットは久しぶりな気がする。個人的には500系現行製品は買ってないので。最近E235系1000番台買ったときには見てるけど。

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もちろん、16両フル編成を編成順に並び替えできる。J0編成や700系でも採用されている、パンタグラフ部分のウレタンを差し替えできるタイプだ。

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付属インレタに収録されているのはJ1・3・8・10編成。N700SはJR東海のJ編成は40編成の増備が予定されているが、時期的に必然的に初期車にならざるを得ない。 基本セットの4両についてはJ1編成の車番が印刷済みである。収録内容は同社の新幹線製品としては標準的で、屋根上の表記類は後述するが印刷済みになったので収録されなくなった。

また、当然ながらJ0編成にあった屋根上の投光器等のパーツは付かない。

今回製品は基本的には確認試験車の製品をベースにしているため、模型の基本的なレビューは以下を参考にされたい。

確認試験車のレビュー
http://speedsphere.blog84.fc2.com/blog-entry-371.html

その確認試験車をもとに、量産車で違いが出た個所を新規制作パーツ等でフォローしていくという製品手法を採っているので、今回のレビューは差異が出た部分がどのように、どれだけ再現されているかを中心に見ていきたい。そのため、実車における差異を以下の記事にまとめたので、こちらも参考に(いらんことも多く書いてるが・・・)。

N700Sの量産車と確認試験車の連荘を見たので比較する
http://speedsphere.blog84.fc2.com/blog-entry-385.html
続・N700Sの量産車と確認試験車の比較
http://speedsphere.blog84.fc2.com/blog-entry-386.html

上記記事で出てきた確認試験車、量産車の差異を挙げるとこんな感じになる。

1.前面窓上部の手すりの有無(実車の記事では抜けてた・・・現在は追記済み)
2.先頭部の台車カバー切り欠きの有無
3.ロゴマークの濃さ
4.2・15号車のパンタ設置準備工事有無
5.3号車山側の喫煙ルーム窓の有無
6.検電アンテナ形状
7.中間車台車カバーの分割線2本タイプの配分
8.10号車海側の業務用室窓の有無
9.11号車身障者対応座席部分の窓ピッチ
10.5号車パンタカバーのスロープ部分滑り止め太さと屋根上の滑り止めパターン
11.8号車屋根上ハッチ周辺の滑り止めパターン
12.10号車のジョイント形状の違い
13.12号車パンタカバーの架線計測用センサー有無

写真撮影の都合上、上記の番号とは順番が前後してしまう箇所があるが1つづつ見ていこう。実車の写真が見たい場合は前述のリンクを参考にしてほしい。また、以降は確認試験車は「J0編成」と呼称する。

●各部チェック

1.前面窓上部の手すりの有無
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左がJ0編成、右が量産車(今回製品)。前面窓上部の手すりはJ0編成の段階で省略されているため差異はない。というか、0系や200系ならともかく、先頭形状が複雑化しだしてからは手すりは省略された製品がほとんどである。いずれにしても、量産車として見れば今回製品は実車に忠実だとはいえる。

J0編成は窓に「J0」が印刷済みだが、量産車はインレタ選択式のため印刷がない。

2.先頭部の台車カバー切り欠きの有無
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上が量産車、下がJ0編成。量産車では先頭部の台車カバーが中間部と同様にハーフタイプになったため切り欠きがある。模型では先頭車のみ床下を新規制作して対応している。一方、中間車はすべてJ0編成の床下をそのまま使用している。

筆者が最後にJ0編成を撮影した昨年6月くらいでは、J0編成でも1号車は量産車と同じ形状に変更されているが、模型は落成時の姿なので16号車ともどもフルカバータイプである。

青帯最上段の長さに若干差があるが、実車に差は見られないので模型の個体差の問題だろう。

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上から1号車の海側床下で量産車前位、J0編成前位、量産車後位、J0編成後位。

先頭車の床下は新規制作されたと書いたが、これに伴い床下のパネル間隔やハッチの位置、ダクトのサイズが少し変更されている(車輪の位置は揃えている)。手持ちの実車動画を見ると確かにこんな差異があり、16号車も1号車と比べると些細ながらも差異を再現しており、先頭車に限ればJ0編成と量産車をきちんと作り分けていることになる。「どうせ床下を新規で作るなら」ということもあるだろうけど、できる範囲のことをキッチリやっているのは非常に好感が持てる。

中間車はすべてJ0編成からの流用となるが、もしかしたら実車においては先頭車と同様に差があるかもしれない。ただ、動画で比較する限りはぱっと見の差は見られず、まったくもって許容範囲だと思う。そもそもN700Sは実車の段階で床下がシンプルで、J0編成の模型でも中間車は2パターンで(特に問題ないレベルで)足りてしまっている。実車のシンプルさに救われたともいえるが、N700系のZ0編成床下流用とは比べ物にならないほど良くなったと言っておきたい。

7.中間車台車カバーの分割線2本タイプの配分

J0編成と量産車では台車カバーの分割線に適用号車の差があるが、模型ではすべて2本タイプになっているので差は表現されない。N700系の時点でも(カトーも含めて)台車カバーの分割線を完全再現したものはなく、ここはそういうものだと割り切るしかないだろう。

すれ違いセンサー窓の有無
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上が量産車、下がJ0編成。

N700系同様、量産車でもセンサーを装備する編成が出るかもしれないので「J0編成との差異」としては扱わなかったが、J0編成の青帯最上段には黒の印刷でセンサー窓の表現がある。ちょっとわかりづらいが、青帯最上段の頂点部分あたりの下に印刷されている。現時点の量産車でセンサーを搭載した編成はなく(な、ないよね?)、模型でも当然表現はない。

3.ロゴマークの濃さ
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上が量産車、下がJ0編成。1号車後位を見る。ざっと違いを見ると「N700S」のロゴが濃くなったこと、検電アンテナの形状が異なっていること。青帯の太さが若干異なるのは個体差だろう。色味の違いは写真の露出とホワイトバランスの問題で、現物を見る限り差はほとんどない。

車番はどちらも印刷されているが、量産車で印刷されているのは基本セットの4両のみで、他の号車はインレタ施工となる。J0編成は全車両印刷済みだ。

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上から1号車量産車、1号車J0編成、 9号車量産車、9号車J0編成でいずれも海側。

実車では量産車のロゴマークはJ0編成よりも濃くなっている点を再現。いや、それ以上に印刷クオリティが大幅に向上しているのは見逃せない。J0編成では離れて見る分にはともかく、拡大すると砂絵みたいな印象だったが、量産車では一気にシャープなものとなった。金色印刷で光を当てるとメタリックも感じられ、実車にそんなメタリック感があるかはともかく模型映えしているのは確かである。

6.検電アンテナ形状
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上が量産車、下がJ0編成。

J0編成では0系以来の伝統の形状で(0系よりは角度がかなり寝ている)、パーツも同社0系のものを流用しているが、量産車ではフィン状の検電アンテナが採用され、模型でも新規制作パーツで対応している。J0編成でも後に1号車は新型のアンテナに交換されているが、模型は交換前の姿である。

5.3号車山側の喫煙ルーム窓の有無
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上が量産車、下がJ0編成。

J0編成では3号車車端の喫煙ルームの小窓が(実車の時点で)省略されていたが、量産車では復活した点を新規ボディで再現。N700系でもそうだったように、かなり小さな窓ながらガラスもしっかり入っている。なお、この窓があるのは山側のみで、海側にはない。

8.10号車海側の業務用室窓の有無
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上が量産車、下がJ0編成。

J0編成にはN700系と同様に業務用室の窓があったが、量産車では省略された点をやはり新規ボディで再現。山側は喫煙ルームの窓が2つ並んている箇所で、こちらはJ0編成と量産車で差はない。

9.11号車身障者対応座席部分の窓ピッチ
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上が量産車、下がJ0編成。

量産車では身障者対応座席(車いすスペース)のピッチが拡大されたため、行先表示機真下から2つ目の窓のピッチも広がっており、模型でも新規ボディで再現。すべて等間隔であるJ0編成との差異となっている。写真は右端を号車番号表記、左端を側灯で揃えたので差がわかると思う。

ところで、J13編成以降はあれだけJR東海がこだわっていた定員統一を崩してまで車いすスペースの増設が行われたようで、この件に関して筆者はコメントする立場にないが、11号車外観がどうなったのかが気になる。そのうち調査する予定だけども、もし差異が発生していた場合は今回製品は(こだわるなら)J1~12編成しか再現できないことになる。

※2021/9/14追記
J13編成以降は座席を未設置にすることで車いすスペース増加分をねん出しており、外観は従来と変化がないことを確認。

4.2・15号車のパンタ設置準備工事有無
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手前が量産車、奥がJ0編成。

J0編成では8両編成の組み換えを想定して(実績あり)、先頭から2両目となる2・15号車にはパンタグラフ及びカバーの設置準備工事があり模型でも再現しているが、量産車ではその必要がないため屋根上には滑り止めのモールド以外、何もなくなった。写真は2号車だが15号車も同様である。

10.5号車パンタカバーのスロープ部分滑り止め太さと屋根上の滑り止めパターン
13.12号車パンタカバーの架線計測用センサー有無

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上が量産車、下がJ0編成。

先に滑り止めの話からすると、量産車では左右の滑り止めがつながっていた点は再現されていない。まあ、ボディを新規制作しないといけないので、差異の規模を考えるとやむを得ないだろう。

パンタカバー(ガイシ覆い部分)のパーツは量産車とJ0編成では異なるパーツを使用しており、スロープにある滑り止めの表現が若干異なる。ただ、これが実車の差異を忠実に再現したものかといわれると疑問が残る。また、パンタカバーは5・12号車で共通しているため、架線計測用センサーの表現はない。

11.8号車屋根上ハッチ周辺の滑り止めパターン
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上が量産車、下がJ0編成。

赤い枠があるハッチ周辺の滑り止めパターンが実車では異なっていたが、模型では差はない。ここは量産車の方が実車に忠実でJ0編成は若干異なる。もっとも、N700系の段階で忠実に再現されていないけど(J0編成とN700系のパターンは同じ)。

量産車にはハッチの赤枠、車端の赤ライン、号車番号がすべて印刷済みとなった。J0編成はインレタを施工する必要がある。上から見ることが多い模型ではこういった表記類は効くので、印刷済みになったのは非常に喜ばしい。

12.10号車のジョイント形状の違い
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右が量産車、左がJ0編成。

J0編成10号車の車端のジョイント(東京寄り・博多寄りどちらも)は大型タイプ、量産車は通常タイプとなるが、N700系でもそうだったがそもそも10号車以外の大型ジョイントも再現していないので差異は見られない。結果、量産車の10号車に限れば実車に忠実ということになる。

●総評

先行発売された試作車に対し、後に発売される量産車に差異が出た場合、その個所を新規制作パーツでフォローするというのは、過去にトミックス(って、他社では例がないけど)では100系、N700系で実績がある。しかし、これらは試作車との差異を必ずしも埋めきれてなかったことも確かである。100系は試作車ならではのツリ目ライトが量産車でも修正されずについ最近まで使いまわされてきたし、N700系も試作車Z0編成の床下が量産車に流用され続けてきた。

今回のN700Sでは3回目の事例となり、確認試験車が発売されたときには量産車の発売は既定路線だったが、同時に心配だったのが試作車を先に作ったら量産車ではしごを外されてしまったでござるがまた繰り返されるのではないかということだった。100系、N700系のように、試作車の仕様をかなり残した量産車になってしまうのではないかと。

しかし、発売されたものを見る限り、今回はうまくやれたんじゃないかと思う。いや、むしろ量産車の色の方濃いくらいかもしれない。例えば前面窓の手すりや、10号車のケーブルヘッドの差異とか。今回製品の基本設計はN700系と大きく変わらないから、手すりもケーブルヘッドもそれに準じていただけのものが「偶然」N700S量産車と合致しただけで、別にメーカーに深慮遠謀があったわけではないかもしれない。実車の時点で試験車と量産車の差異が少なかったことに救われただけなのかもしれない。ただ、出てきた製品はきちんと量産車しているということだけは確実に言える。

今回製品は確認試験車(J0編成)をベースにしているが、前述のとおり基本設計はN700系である。そのため、短所もおおよそ引き継いでしまってるが(大型ジョイントが再現されていないとか、台車端の軸バネがカットされているなど)、堅実でそつなく、総合的な完成度は高い長所もしっかり引き継いでいる。それでいてN700系量産車のような問題点はないし、さらにはロゴマークの印刷品質が向上したり、屋根上表記が印刷済みになったり、新規制作の床下はより量産車に忠実なものになったりと・・・

N700Sは東海道・山陽新幹線のみならず、九州新幹線向けも発表されているし、今後500系、700系E編成の置き換え用が登場するのも時間の問題だろう。そしてそれらは間違いなく模型化されていく。そんな今後の主力車両を再現していく模型として、今回製品は長く戦えるポテンシャルを十分に持っていると思った。確認試験車はマニアックすぎるけど量産車なら、という人にも安心してお勧めできる、「N700S量産車」として十分に満足できる製品と評価したい。

p.s.さあ記事公開するか、と思ったらN700S3000番台(JR西のH編成)が発表されてた。リリース文見る限り、JRマークが青になるのとインレタの変更、セット構成の変更程度(基本8両+増結8両になる)の模様。筆者は買うかどうかわからないけど、今回のレビュー内容がほぼそのまま通用するはず。

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本筋とは逸れる話題ですが、基本セット紙パッケージのインサートを切り取るとブックケースの製品名表記を変えられるようになっていますね。(以前は無かったと思うので、最近導入されたのか…)
以前から「増結セットx2」になってしまうのが微妙にモヤモヤしており、KATO製品の場合は同様の目的のラベルが付いていたので、嬉しい配慮です。

Re: タイトルなし

名無し様

コメントありがとうございます。

>基本セット紙パッケージのインサートを切り取るとブックケースの製品名表記を変えられるようになっていますね。
そうなんですか!ブックケースに移した後にパッケージを処分してしまったので全然気がつかなかった・・・E235系もそうだったのかも。今後トミックスの紙パッケージの製品買ったら確認してみますね。
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Author:友輝
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